Gregory M. Werner,Artifical Life V,
面白そうだったから。
生体の獲得する配偶者数あるいは受精数の違いに起因する淘汰。
(岩波生物学辞典第四版より)
雄のある形質とそれに対する好みの進化は、その両者が正のフィードバックを起こして加速度的に強化されてゆく過程によるとする説。R.A.フィッシャーの提唱。
(岩波生物学辞典第四版より)
生物のもつ、遺伝形質が環境適合する形質を備えた個体により、より高い確率で増えていく。遺伝的アルゴリズムとはこの基本的な環境適合形質の濃縮という自然淘汰のスキームをベースとして、進化における適応現象を遺伝的な情報処理としてとらえたアルゴリズムである。
何故、性淘汰といわれているような現象が起きるか?
Runaway selectionのモデルを用いた研究かこれまでにもいくつか行われてきた。
性淘汰の実験の多くが"three-gene mathmatical models"によって行われているが、この論文では著者らは、その代わりに"genetic algorism"(以下、"GA"と略)によって行っている。これには、以下のような2つの理由がある。
これらの単純化を廃止すると、モデルの結果が劇的に変化しうる。
ex) Pomiankowski(1987,1991)
実験の目的:
実際に操作を行う個体として、以下のようなものを設計する。
有利なtraitsは、その遺伝子の持ち主(carrier)が現在の特徴を広めるのに役立つ。
ex) hunting skillなど
不利なtraitsは、carrierが現在の特徴を広めるのを妨げる。
ex) 極端に長い尾、派手すぎる体色.etc
sex-linked traitsは両性により受け継がれるが、雄の適応度にしか影響しない。
3.で用意した個体を以下のような一連の操作によって処理する。
旧世代の集団を破棄し、この操作によって得た新世代の集団を用いて、このサイクルを繰り返す。
この実験においては、集団のサイズを2000から5000個体、サイクルは2000から5000世代行った。
操作特質(attribute)変化のベースラインを得るため、まず最初に、自然淘汰で生存した雄を雌がランダムに配偶者として選択するような実験を行う。 |
予測通り不利なtraitsは、すばやく"select out"され、集団中ではpositive traitsが最大レベルになった。
10世代でmaximum varueの90%をpositive traitsが占め、30世代後には集団はpositive traitsに集中し、negativeなものはminimum varueになった。
操作次に、{雄にのみ影響し、それを雌が識別できる」という不利なtraitをひとつ追加する |
ランダムで小さな変化をさせて数世代たつと、「traitを好む」のと「それを持つ」ものとが結びついたものが観察されはじめる。(これは、Collins&Jefferson,1992.やMiller&Todd,1993.にも同じような結果が見られている)
この時点でRunaway Sexual Selectionが急上昇し、そのハンディキャップにより雄が減少しはじめるまで上昇を続ける(fig.1)
全"animals"中の、繁殖齢に達するまで生き残れる雄のパーセンテージは、雌の選択基準を満たすために雄にかかる淘汰圧がどのくらいであるかをよく示唆している。もっとも顕著なものは、雄が雌を惹きつける特性を得るために、自然淘汰に対する適応度を犠牲にする度合いが測れることである(fig.2)
このモデルは配偶時における両性の割合を予測するのにうまく役立つだろう。
ex) peacocks:
雄は2〜5の雌からなるハレムを形成する(Britannica,1995)
↓
このシミュレーションで似たような雌の個体幅が見いだされている。
ex) white-bearded manakins
雄は6〜10個体からなるlekを形成し、そこに約200個体の雌が訪れる(Alcock,1984)。このことはこの種においては生存率は20〜30;1で、雌がより多く生き残ることを示している。lek内の一羽の雄がlekに訪れる雌の75%と配偶することがあるため、雄には雌の選択基準を満たすためのすさまじい圧力がかかっている。
↓
シミュレーションでも、雌が雄の選択のときに「非常に厳密に」選択を行うような条件では同じように生存率が下がるのが観察された。(→5.7)
操作不利なtraitsの数を増やしてみる。合計で3,及び7traitsで行った。 |
不利なtraitsを複数にして再度Runaway selectionのシミュレートを行ったが、雄が持つ全体のhandicapsはtraitsの数に関係なく同じであった。
このことは不利なtraitsは数が増加するだけそれぞれのtarits自体は広まりにくくなることを示している。
↓
不利なtraitsが複数あるときには、たいていの場合少数のtraitsが突出し、(それ以外の)そのままのtraitsは自然淘汰のみにより期待されるレベルの近辺にとどまったままとなる。(fig.3)
興味深い特徴が数回のシミュレーション中に見られた。
2つのtraitsに対する強いpreferenceは一方のpreferenceを満たすためにもう一方のtraitsを犠牲にし、雄の集団をそれぞれ"specialize"な2つの集団に分割してしまう。
↓
この分割が新しい種を誘導することが示唆されている。(Todd&Miller,1991)
雄が持つ全体でのhandicapは正確に言えばtraitsの数とともに非常にわずかずつ増加している。traitsが完全に選択されたとしても、preferenceとhandicapsの平均が集団中で0であるわけではない。また、handicapsは突然変異によって平均から
押し上げられて(push up)ゆく。(この実験では変異率は1/1000)
つまり、traitsを増やすと、雄のfitnessは徐々に減少してゆく。(fig.3)
preferenceとhandicapsの均衡点に達すると次の均衡点に移行するまでの数百世代の間、そこで安定している。
自然淘汰は雄にとってhandicapsとなるようなtraitsを減少させる圧力を持つため、もしそれが雌に好まれないのであればそのtraitsは集団中から速やかに排除される。handicapsを減らす雄は自然淘汰に対する生存率が高くなる。しかし、雌の持つ「遺伝子」は雄がより多くのhandicapsをもっているのを好むため、そうした雄は交配時に配偶者を見つけるのが艱難になる。
一方よりたくさんのhandicapをもつ雄を好むような雌についても同様に、それを好みすぎる雌は、その子(ひいては彼女の遺伝子)が自然淘汰によって排除されてしまう。逆に集団中の「より平凡な」雄を好むような雌についても、その息子(が魅力的でないため)配偶者が得られにくいことによって集団中から排除される。
雌が評価する雄の数が不利なtraitsの突出にどう影響するかを調べる。
操作配偶者選択のときに雌が評価する雄の数(sample size)を変化させ、sample size=4,20,40の条件でシミュレートした。 |
sample sizeが大きいときには小さいときにくらべてはやく突出し、より高い点で均衡する。これはsample sizeが小さいほどsurvival ratioが小さい(つまり、生き残っている集団中において、雄の割合が大きい)からである。雌がより多くの雄を評価すると(sample sizaが大きくなると)雄の雌を惹きつける性質に対するコストが大きくなるとあり、このことは前述5.3の議論からいえば、自然淘汰への適応度が低下する。つまりsurvival ratioは大きくなる(雄が減る)。(fig.4)
より大きなsample sizeであることは雌にとって好ましく、また、雄の不利なtraitsをより突出させるという考えが妥当であるかどうかテストする。
操作「sample sizeに関する遺伝子」を個体にもあせて、シミュレーションする。 |
時間とともにsample sizeは60〜80ほどに進化する。これほどに大きくなってしまうと雄同士の相違は非常に小さくなるので(←用意してあるtraitsの遺伝子の数が限られているからだろうか?)これ以上sample sizeが大きくなることはないだろう。また集団全体において子が雄である割合はとても小さくなる。(fig.4)
雌は大きなsample sizeを持つように進化するのを「魅力的な息子」を持つことで保証(ensure)する。
次に最も魅力的な雄を見つけるために、雌がどれだけの適応度を犠牲にするかを調べる。
操作評価した雄の数の1%をfitness penaltyとして設定し、5.5と同様にsample sizeの進化をシミュレートする。 |
sample sizeは1から変化しないまま進化した。
これは雄が雌の期待のためにfitnessの80〜90%を犠牲にするのに対し、雌は評価する雄の数を増やすためには1%以上自分のfitnessを下げようとはしなかったことを意味している。
再操作fitness penaltyを1/10に下げ(0.1% per male evaluated)再度シミュレートを行う。 |
sample sizeは7〜15の間のままで進化した。
このことは雌が雄を評価するために自分のfitnessは約1%しか費やそうとしないことを意味する。
雌は雄を惹きつけようとして大きな犠牲を払うのに対して、雌はそれについてほとんど関心を示さない。
面白かったので原文をそのまま載せておく: |
この理由は、雄がコストのかかるtraitsを持つことにより(何度も交配できるので)直接利益が得られるのに対して、雌はより"choosy"になる(すなわち、より魅力的な息子を持つ)ことによる非直接的な利益しか得られないからであろう。
次に、雌のdiscrimination abilityが雄のhandicapsをもてる限界にどのように影響するかを調べる。
操作'perfect discrimination'を持つ雌を集団中にランダムな数加えて、シミュレーションの比較を行う。 |
雌のdiscrimination abilityは、雄の不利なtraitの進化の実験でこれまでにテストしたどの変数より大きな影響をもっていた。(fig.6)
雌の識別能力が高いと、雄はより多くのhandicapsを持つことになる。
雌の識別能力が高い場合、実際問題として性淘汰はその集団の絶滅をもたらす。なぜなら、すべての雄が適応度曲線の一番下(low-end)に位置してしまい、もしlow-endよりも多い数の"animals"が死ぬような状況になったときに、すべての雄が消滅するからである。
繁殖前に雄が死にすぎるような場合、高い死亡率を補うため雄をよりたくさん生むのが有利ではないだろうか?
答えは"no"である。理論的には両性における繁殖成功は等価であると期待されるので、雄/雌の子に対しての投資は等価であるべきである。このシミュレーションではどちらの性の子を持つコストも等価であるので、片方の性の高い死亡率を補うように、生まれてくるときの性比を変えることはしなかった。これは、片側の性が繁殖のときに少なければその繁殖成功は高くなり、両者の効果は互いにうち消されるからである。
以上のことを確かめるのに、以下のようなシミュレートを行った。
操作子が雄である割合を遺伝的形質として個体に持たせ、シミュレートを行う。 |
性比は予測したとおり50%に非常に近い値の近辺にとどまったままだった。
性淘汰には際限がなく、雄は雌に選ばれるために、究極的には結果として絶滅が起きるかもしれないほどに適応度を大きく犠牲にしようとする。
性淘汰は、わざわざ有害な個体に特化する性のフィードバックによる進化的arms racesのひとつにすぎない(Miller&Todd,1995)。
このようなracesには他に、捕食者ー被捕食者、宿主ー寄生者などがある。
性淘汰が行われるときに複数の特徴を持っていたとしても、そのうちのどれか少数の特徴のみを突出させることになるだろう。
どの時点においても、雌によって好まれるtraitsは雄の獲得するそれよりも「強い」。これは進化の直接的な動機になる。
性淘汰がはたらくと、集団の構成中のの低い部分を雄が占め、生存が困難であるような時期(season)に、すべての雄が死滅してしまう可能性がある。
このことは、雌のsamplingに要するコストが非常に小さく多婚が盛んであるような(lekking speciesのような)種では起きる可能性がある。
あまり多婚をしないような種における雄にかかる性淘汰圧と雌への淘汰圧についての理解のために、parental investmentとmale choiceを加える計画を立てている。