つづき
このモデルでは残っているniche spaceの一定の割合(k)を新しい種が連続的に占有していく。(fig.7.4)
このモデルでは、新しい種は集団中で最も小さなニッチを見つけその半分以上を占有する(fig.7.5)。既にそのニッチが占有されているような場合を'niche fragmentation'(fig.7.5a)、最小のニッチを占有している種があらかじめ存在していない場合を'niche fragmentation'(fig.7.5b)という。
このモデルでは侵入のときに最小のニッチに侵入する代わりに、最大のniche fragmentを選択し任意の割合で占有する(fig.7.6)。
このモデルはbloken stick modelによく似ているが、bloken stick modelが同時的なニッチ分割を想定している(A→B+C+D+E)のに対して、このモデルでは連続的なプロセスによる分割(A→B+C,C→D+E)を想定している(fig.7.7)。集団中の全ての種が侵入の対象となり、その確率はniche fragmentの大きさに比例する。
このモデルは上記のMacArthur fraction modelによく似ているが、集団中の各abundanceやniche sizeに関係なくどの種においても同じ確率でニッチ分割が起きる点が異なる(fig.7.8)。
全体が不定なニッチ空間において、各種が独立に任意の割合でニッチを占有しているとき、niche filling processによってrelative abundanceのパターンが造り出される(fig.7.9)。
ここまで説明してきたニッチ分配のモデルは大まかに2つの解釈に分けられる。
種のabundanceの順番ががニッチ支配の順(rank order)と一致している。
種のabundanceの順番とrank orderとには相関は無く、種のrankは時間と場所の違いにより種間で変化する。
自然界の大部分の集団は1,2をそれぞれの割合で両方持っているようだ。
大集団におけるrelative abundanceのパターン
統計的モデルと大集団
ニッチ分配モデルにおいてはrelative abundance patternsのメカニズム的説明を試みたが、この節では統計的モデルによるアプローチを試みる。
相対的に種数の大きな集団におけるspecies abundanceのパターンについての比較や記述には、統計的モデルを用いるのが一般的である。統計的モデルとして(table7.1)、the log series modelとlognormal modelが注目されている。特に後者はcommunity ecologyの理論的知見の発展に多大な影響を与えている。(数学的な詳細についてはMay 1975 and Pielou 1975を参照)
種の頻度もしくは種数(fn)は種の個体数(n)に対してfig.7.10のような曲線でプロットされ、nの増加に伴い低い値で長くのびる(fig.7.10;Williams 1964)。
このモデルでは純粋に統計的な現象として標本集団が偏っているために、どのような生物学的に有意義な解釈にも当てはまらないだけではないかという疑問が生じるが、大部分の実験調査においてその答えは得られていない。log級数モデルにおいて、n個体を持つ種数fnは以下のように与えられる。
fn=αXn/n
|n:個体数(n=1,2,3…)
|X:任意のパラメータ(0<X<1)
|α:パラメータ、曲線の形状に依存、長く尾を引けばαは大きい。(α>0)
αはその特性ゆえにsample sizeに独立な便利な特性を持つ多様性の指標として用いられてきた(Fisher et al. 1943)。
また、species richness(S)とサンプルにおけるサンプルサイズもしくは個体数(N)との関係に由来するもので以下のようなものが考えられる。
S=αln(1+N/α)
これはspecies richnessがサンプルサイズの増加に伴って無限に増加することを示唆しているが、実際の生物集団、空間スケールでは有限である。
・log series modelはそれ自体が機構的なプロセスを導き出すわけではなく、そういった意味からいえば統計的なdiscriptorにすぎない。
種の頻度もしくは種数が、population abundanceの2を底とする対数(log2)で表現されるとき、つまり集団の倍加が連続的なabundanceのクラス('octaves';Preston 1948,1962)により表現されるとき、つりがね型の曲線がしばしば得られる(fig.7.11).。R番目のoctaveにおける種数SRは以下のように与えられる。
SR=S0 exp(-a2R2)
|R:abundance class,ある集団中のあるサイズの種数を持つ種が見られる頻度、R=0のときに最頻値。
|S0:R=0のときの種数、つまりその集団において最も高い頻度で見られる種数。
|a:曲線の幅の逆数;a=(2σ2)-1/2
この曲線(the 'species curve')におけるoctaveの最大値(Rmax)はしばしば'individuals curve'における最頻クラス(RN)と一致する('individuals curve'は各octaveにおける総個体数をプロットしたもの;fig.7.11)(Preston 1962)。このタイプのlognormal modelはcanonical lognormalと呼ばれ、一般的にa〜2となる。
実際のデータにおいて、lognormal curveの左側は滅多に現れない。このようなパターンは'truncated'lognormalとよばれる(fig.7.12の一番上)。サンプルサイズが増加すると、曲線が左側に現れてくる(fig.7.12)。このことはlognormal modelがサンプルサイズによりその形が異なり、小さなサンプルにおいてはlog series modelと見分けがつかないことを示唆している。
さらに、ニッチ配分モデルによる分析にくらべて、lognormal modelに当てはめるのはabundanceパターンの分析の方法としてはかなり大雑把なやり方である。
・なぜlognormal model、特にcanonical形が多くのデータに当てはまるのか?
→May(1975)とUgland&Gray(1982)はcanonical lognormalは大部分が数学的な現象であることを強く示唆している。
・Preston(1962)自身はこのモデルを単に統計的なdescriptorとして扱っており、生物学的な意味合いは持たせてない。
May(1975)の提唱とは反対に、canonical lognormal modelは見かけ上、多様な生態学的データによく当てはまる。
↓
species abundanceのパターンの根底に共通の生物学的なプロセスが存在するのではないか。
このことには3つの可能性が考えられる。
大集団のabundance patternの分析において、二つの対照的なアプローチが出てくる。
本質的にはこのモデルは一般的なrandom fraction modelの特殊なケースであると考えることができる。このモデルとrandom fraction modelとは分割の割合の確率分布に関して異なっており、random fraction modelではP=0.5からP=1.0の間の統一した確率分布を用いているのに対して、Sugihara's modelではP=0.5からP=1.0の間で、P=0.75でピークを持つ三角形でfrgmentを分割する割合についての確率分布を想定している(fig.7.13a右図)。
さらに分轄の割合を固定することで(fig.7.13a左図)、予測される平均的なパターンの近似をとることができるとしている。
しかし、割合を固定したときとtriangularな確率に従って分割するときとでは全種数に対して、abundance('octave')のlog2の標準偏差をプロットしてみると同じ結果にはならない(fig.7.13b)。
*これ以降(p203後-p204第一段落)で著者の述べているこのモデルの問題点についての指摘はよく理解できませんでした。
Sugiharaのモデルは実際のデータ(Tokeshi 1990)にうまく当てはまらないため、random fractionmodelとの区別は重要である。
Sugihara's modelにおける二つの重要な問題点:
このモデルはrandom fractionモデルとMacArthurのモデルの中間的なモデルである。
このモデルでは分割されたflagmentを選択する割合は、ニッチ断片のサイズ(X)を用いてXk(0<k<)で表される。Sugiharaのモデルと対照的に、このモデルは分割の割合が固定ではなくどのような割合の分割もランダムに起こりうる。
このモデルはspecies-richな集団のデータによく当てはまる(fig.7.15a)だけではなく、集団中におけるrareな種についての正確な評価が行われているような質の高いデータにおいてもよく当てはまる点で重要である。
ex) bird data of British breeding birds from BTO
パラメータを固定して全部のデータに当てはめる(groval approach)かわりに、異なるそれぞれのデータに異なるパラメータでモデルを当てはめる(community-specific approach)こともできる。Sugiharaのモデルはgroval approachしかできないため、この点でもこのモデルは優れている。
このモデルを実際のデータに当てはめてみると、K〜0-0.2のときのモデルによって大集団で観察されるほとんどのabundanceのパターンを説明できる。
K〜0.05またはK〜0-0.2のときのこのモデルがデータによく当てはまることは、集団が連続的なニッチ分配のプロセスにより形成されることを支持している。この連続的なニッチ分割における分割の割合は、大きなニッチもしくは高いabundanceを持つ種でわずかだが高い傾向がある。
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高いabundanceや地理的に大きな幅を持つ種ではより新しい種を生み出しやすく(Darwin 1859)、化石証拠がそれを支持している(Jablonski 1987)。
ある種を結果的に2つに分割するような生態学的な障壁はどのような種においても見られ、それにより分割の割合も広い幅で変化する。
これらのことから、このモデルは生態学的及び進化的な観点の両方を持っている。
Kの幅が0-0.2のときこのモデルがよく当てはまることは、平均的なspeciation/invasionのおきる確率がその種の現在のabundanceの指数(<0.2)に依存していることを支持している。これは集団中で正確には種は変化しているかもしれないが、現時点でのcommunityにおけるabundanceのパターンは進化的な時間に反映しているという想定に基づいている。
このモデルにおいてパラメータKがしばしば0に非常に近い値になる。このことは多くのケースにおいてrandom fraction modelが種のabundanceの表現に適していることを示唆している。
集団におけるabundanceのパターンは時間・場所・集団の違いによって変化する。
このことの要因として、以下のような物が挙げられる。
1.は、このモデルを用いてMotomura(1932)が行おうとした、集団の「複雑さ」の記述である。この場合、このモデルは集団のrank-abundanceのデータに一様に当てはまり、kの違いを比較できる。
2.では、異なるstochasticなニッチ分配モデルをそれぞれの集団に当てはめ、モデルごとの適合性を評価する。
3.では、異なるrankのabundanceの値もしくはabundanceの値のlogの標準偏差のどちらかについて、power fraction modelの適合性が最大になるような可能性について考える(7.3.2でふれたように前者の方が詳細な調査・比較には適している)。
taxa的によく似た集団であってもrelative abundanceは全く異なる。
・熱帯と温帯の樹木集団でのrank-abundance曲線の例(fig.7.16;Hubbell 1979)
→熱帯の種の傾きは温帯の集団の物に比べてどのようなabundanceでも緩やかである。
species richnessがより大きい集団ではrankにともなうrelative abundanceの減少はより緩やかである。
・fig.7.17(Bazzaz 1975)に見られる例。
→これらのパターンは集団中の種数の増加による、平均のrelative abundanceが減少するという単純な効果によるだろう。
他方で、species richnessの高い集団のrank abundanceが常に緩やかな傾斜であるとは限らず、species richnessが増加したとき(S→S+c)次の二通りが考えられる(fig.7.18):
rank-abundanceの曲線の形もまたspecies richnessにより変化しうるが、このことの評価は難しい。
種数の少ない集団でのgeometricなパターンがspecies-richな集団ではlognormalなパターンに推移するという考えは、種数の増加による統計的な現象にすぎないと考えられる。
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この考えは集団中のspecies richnessを減らしていくコンピュータシミュレーションによってrank-abundanceの曲線がlognormalの形からgeometricの形に変化する(Hubbell 1979)ことから棄却できる。
似たようなspecies richnessを持つ集団を比較することでspecies richnessの差異による効果を減らしたり避けたりできる。このことは集団間の比較についてだけでなく、単一の集団における一時的なrelative abundanceの調査、つまり集団内の比較においても当てはまる。
これらのことから、stochasticなニッチ分配モデル(power fraction modelを含む)によるメカニズム的な比較は有用なアプローチである。
、統計的なモデルではパターン間の比較は行いにくいが、モデルではうまくいかないような場合にもKolmogorov-Smirnov testのような統計的な検定によって集団間のrelative abundanceのパターン比較を行うことはできる。
異なるtaxaグループ及び異なる時間的・空間的スケールでのrelative abundanceのパターンの差はChapter4,5で議論したように、species richnessにおける差に比べてあまり理解されておらず、さらなる調査が待たれている分野である。
relative abundanceの調査において大部分の種はrareである。
・希少性は生物の保全に関連し重要である(Gaston 1994)。
種のrarity/commonnessの識別(→fig.7.3、ふぃg。7.11)
…種のabundanceと空間分布は一般に一致している。
しかし、多くの場合communityのほとんどの種がrareである。
このことは熱帯雨林のようなspecies-richな集団で明瞭に見られる。
反対にrareな種の割合が高い割合を示すような例もある。
前者のabundanceパターンには対照的なlognormal modelは当てはまらないが、それでもtruncatedなlognormalには当てはめられるだろう。
他方で、後者のようなパターンが多くのケースで見られるならば、いくつかのspecies-richな集団のabundanceパターンについてはlognormalは基本的に当てはまらないという解釈が成り立つ。このような場合、relative abundanceに関連する要因について、さらに厳密な再評価が必要だろう。
今のところ、自然集団の多目的かつ生物学的な説明にlognormal modelを用いるのは妥当であるだろう。power fraction modelを含めたニッチ分配モデルはこの観点からさらに関心を向ける価値がある。