Multiplicity of stable states in freshwater systems
Marten Scheffer
Hydrobiologia 200/201 :475-486,1990.
KEY WORDS: model, equilibria, stable states, catastrophe theory
概要
淡水系における最小モデルを用いたいくつかの生態学的研究から,ある栄養塩レベル幅内で複数の安定点が存在する可能性が示唆されている.
Alternative Stable States(以下,ASS)の存在は,これらの系を扱う際に意味合いを帯びてくる.というのは,(ASSの効果により)目に見える形での変化が湖に生じたときには,既にその環境修復が非常に困難なレベルにまで富栄養化が進んでいるためである.
人工的な栄養塩レベルの低下は水系環境を回復する手段としてあまり効果を発揮しない.逆に生物操作を行うことにより,透明な安定状態に戻るほどの顕著な栄養塩レベルの減少効果が得られる可能性がある.
ABSTRUCT
It is shown with the use of minimal models that several ecologicl
relationships in freshwater systems potentially give rise to the existance
of alternative equilibria over a certain range of nutrient values. The
existence of alternative stable states has some implications for the menagement
of such systems.
An important concequence is that signs of eutrophication are
only apparent after the occurence of changes that are very difficult to
reserve. Reduction of the nutrient level as a measure to restore such systems
gives poor results, but biomanipulation as an additional measure can have
signifidant effects, provided that the nutrient level has been reducted
enough to allow the existence of a stable alternative clear water equilibrium.
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Introduction
<これまでの研究>
・生態系における複数の安定点の存在については以前から研究されている。
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理論研究(May,1977,1981)
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陸上の研究(Gatto & Rinaldi,1987; Noy-Meir,1975; Ludwig et al.,1978;
Anderson,1982)
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湖沼の研究(Hosper,1989; Timms & Moss,1984 他)
・富栄養化の生態系に与える影響に関する理論的予測についての研究には以下の様なものがある。
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2栄養段階のモデル(Rozenzweig,1971)
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多栄養段階のモデル(Oksanen et al.,1981; Rozenzweig,1973)
・ASSが存在しないとき二は栄養塩レベル等の変化の影響は環境にリニアに反映される。一方、ASSの存在下ではそれらの影響は環境の不連続な変化として現れる事が知られている。
<この論文の目的>
この論文では、富栄養化の際のASSの影響についての問題を扱い、淡水系におけるいくつかの生態学的な相互作用について単純なモデルを用いた分析を行いることで、特定の状況下におけるASSの存在について示す。
Modelling conventions
<モデルの方針>
(1)単純な「最小の」モデルを用いる。
ASSの存在には様々な要因が考えられるが、それらを包括的に扱う事は非常に困難である。
→変数を減らし、系の次元を下げる事で個々の要因の具体的な働きを明らかにする。
・主な生態学的な要因(fig.1)
これらのサブグループはそれぞれ系に対して全く異なる影響を持つが、それらの明確な区別は非常に難しい。
(2)被食魚全体をコミュニティ内で単一の機能群として扱う。
魚の採餌行動は種、餌、齢によって異なるが、プランクトン食魚が幼齢時に底生食魚であると仮定する。
(3)数学的な近似を行う。
・HillとMonodの関数を近似に用いる(Fig.2)。
・Hill、Monodの関数
一般的な形は以下のように与えられる。
f(x) = xp/(xp + hp
) (fh+
)
f(x) = hp/(hp + xp
)
(fh- )
この関数は[0,1]の値をとり、0.5のとき、xは半飽和定数(h)と等しくなる。
p=1のときのf(x) をMonod (Michaelis -
Menten)の関数という。
f(x) = x/(x + h )
(fm+ )
f(x) = x/(x + h )
(fm- )
pが増加するに従ってブロック応答に近くなる。 |
・ロジスティック成長の関数を利用する。
ロジスティック成長は以下のように記述される。
dN/dt = r・N - c・N2
r : maximum per capita growth rate
c : density dependent growth limitation
また、carrying capacity (K = r/c)を用いて以下のように記述される。
dN/dt = r2 ・N・( (K - N)/K ) |
・主要な生態学的要因の相互作用についてモデルを用いてその働きを調べる。
具体的な相互作用モデルとして以下の4つが考えられる。
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Model 1 : vegetation - turbidity
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Model 2 : fish - turbidity
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Model 3 : piscivores - fish
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Model 4 : vegetation - fish
Some multiple stable state models
Model 1 : vegetation - turbidity
<モデルの想定>
・このモデルは以下の想定に基づく。
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植物プランクトンは富栄養化に伴い増加する。底生植物への栄養制限の重要度は低い。
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底生植物はturbidityに対して負の効果を持つ。メカニズムとしては、
-
湖底土壌からの栄養塩回帰を減じる。
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動物プランクトンの保護効果(Timms & Moss,1984)
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溶存栄養塩の減少(Van Donk et al.,1989)
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阻害物質の放出(Wium-Andersen,1987)
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底生植物のバイオマスはturbidityの増加に従い減少する。
-
補償点光量に達するまでは底生植物へのturbidityの影響はない。
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浅湖では湖底の深度は均一とし、底生植物は補償深度に満たなると消失する(all-or-none)。
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深湖では湖底を勾配と考え、底生植物バイオマスはturbidityに従い減少する。
<モデル>
・浅湖におけるturbidityの増加(Fig.3a)と、ASSのメカニズム(Fig.3b)。
・deeper lakesでは底生植物の減少はturbidityの影響を強く受けall-or-noneでは不適切である。
→相互作用を含めて別の記述が必要となる。
底生植物のアバンダンス(V)とturbidity(A)は以下の様に記述される。
dA/dt = r・A・fm+(nutr)・fm-(V)
- c・A2
V = fh+ (A) |
・V はAのHill関数で表されているが、指数が大きくなるとshallow lalesのときのall-or-noneに近づく。
・dA/dt = 0(安定状態)のときの栄養塩レベルに対するプランクトンバイオマス(fig.4)。
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Hill関数内の指数pが小さくなると次第にASSの存在する栄養塩レベルの幅が狭くなり、最後には連続的になる。
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一般的にASSの存在する可能性は湖の深度と共に小さくなる。
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底生植物の影響が大きいほどASSを創り出す傾向にある。
<考察>
●底生植物のturbidityへの負の効果はASSの重要な前提となるが、それだけでは不十分で湖の深度が重要になってくる。
●浅湖では、vegetation-turbidityはASSの要因になりうる。
Model 2 : fish - turbidity
<モデルの想定>
・魚によるturbidityへの効果は、そのメカニズムにおいて底生食とプランクトン食により異なる事が知られている。。
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底生食魚による効果 : 採餌行動時に土壌を攪乱、透明度に影響。
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プランクトン食魚による効果 : カスケード効果
<モデル>
・魚の密度が高いとき植物プランクトンが増加し低いときにはその逆となるが、中間の栄養レベルでASSが存在する(Fig.5)。
(#単純化のために、total として両者を足し合わせている。)
<考察>
・実際には多くの複雑な要因が存在する。
例)底生食魚の間接的影響
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底生植物の除去。
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懸濁物の回帰促進による植物プランクトンの利用光量の低減。
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栄養塩回帰による動物プランクトン増加の促進。
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栄養塩回帰による植物プランクトン増加の促進。
●魚類のturbidityへの影響は複雑で予測は困難であるが、fig.5はASSの存在を示唆していると考えられる。
Model 3 : piscivores - fish
<モデルの想定>
・捕食により魚類のバイオマスを調節することでturbidityを減少できる事が知られている。
・被食魚-捕食魚 の相互作用はASSの特定の状況下における起因として知られている。
・捕食者の被食者に対する効果により、2つの安定状態が存在する。
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overexploited (predator-controlled) state
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underexploited (food-controlled) state
・魚のコミュニティについて以下の想定を行う。
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white fish( planktivore + venthivore) の生産性は栄養塩レベルに伴って増加する。
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魚食魚による捕食の効果も影響する。
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piscivoreの量には、その餌資源とは独立な上限値が存在する。
→たとえばpike(Esoxlucius L.)の最大量は底生植物の高さに依存する(Grimm,
1989)。
<モデル>
・このモデルは被食者と捕食者の成長について考えたもの。
以下のように記述される。
dW/dt = r・W2 - P・pr ・fh-
(W)
dP/dt = P・ce ・pr・fh+ (W)
・fh- (P) -m・P
W : whitefishの量
P : piscivoreの量
pr: piscivoreの最大捕食率
ce: piscivoreの餌から生長量への利用効率
m : piscivoreの死亡率 |
・このモデルの特性はゼロクラインを用いて分析できる(Fig.6a)。
→ラインにより分割された各エリアはそれぞれの成長パターンを表し、ラインの交点は系の安定点となる。
・想定より、dP/dt は栄養塩レベルによって異なる(Fig.6b)。
<考察>
・栄養塩レベルにより安定点の状態が変化する。
・安定点間におけるwhitefishの量と栄養塩レベルとの関係は、浅湖におけるプランクトンの栄養塩応答(Fig.4)に類似する。
●捕食者が被食者の密度をコントロールできるのなら 捕食者-被食者 の相互作用によるASSが存在しうる。
Model 4 : vegetation - fish
<モデルの想定>
・底生植物と魚類の相互作用には以下のようなものが挙げられる。。
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魚類による透明度の増減
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底生食魚による直接的なダメージ(Ten Winkel & Meulemans, 1984)
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底生食魚の保護効果(Diehl, 1988)
<モデル>
・このモデルは底生植物の成長と魚類の成長について考えたもの。
以下のように記述される。
dF/dt = rf ・F・fm-
(V) - cff ・F2
dV/dt = rc ・M - cvf ・M・F - cvv
・V2
F : benthivoreのcarrying capacity
V : 底生植物のアバンダンス
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・底生植物および魚類のアイソクラインと、その交点(=安定点)(Fig.7a)。
・魚類のゼロアイソクラインは富栄養化につれて高くなる(Fig.7b)。
→ASSの存在についての栄養塩への依存はこれまでのモデルと同じ。
<考察>
●この相互作用由来のASSの存在を予測するためには詳細な研究が必要である。
Whole system behavior
・ASSにはいくつかの要因が考えられるが、エコシステムを扱う際にそれらを完全に切り離して扱うのは不適切である。
→一つの方法として、個々の最小モデル同士を統合させるという方法が挙げられる。。
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複雑性を増やし、結果としてモデルの動きがパラメータの設定に依存する事につながるだろう。
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加えて次元を下げる事によるアドバンテージが失われてしまう。
・相互作用の構造(Fig.1)により、浅湖においては安定状態は二つ程度になるだろう。
→要因同士の相関が強いと、ある要因によるスイッチは別の要因のスイッチのトリガーとなりうるため。
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透明状態、底生植物支配、魚類少。
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非透明状態、植物プランクトン支配、底生食魚多。
Stability and the implications for management
<ASSシフトのメカニズムについて>
・ 'marble-in-a-cup'モデル(Fig.8a,b)
<まとめ>
・系の安定性はbiomanipulationの結果を予測するためには非常に重要である。
ASSが利用可能であるならば、長く非透明な状態の湖をある操作で十分に回復する事もできるだろう。