プランクトンの逆説・逆理、ハッチンソンのパラドクスとも呼ばれる。
同じ資源をめぐって種間競争が起きると競争排除が起きる(Gause, 1934)。生物種の共存メカニズムは一般的にはニッチ分化によって説明されるが、このとき、共存できる種の数は平衡状態ではニッチの数(または、制限となる資源の数)を超えることはできないとされる(Levin,1970)。
しかし、例えば湖沼に代表される水系のように均質でニッチ分化が殆どないと考えられている環境下でも、実際には多種類の藻類が共存している(ように見える)。この矛盾は、Hutchinson(1961)から「プランクトンのパラドクス」と呼ばれる。
Hutchinson(1961)では、湖沼は均質であるが(季節変化などによって)時間的に変動しており、ある時点で排除されつつある種が別の時点では競争に優位となるといった、競争関係の相対的な優位性が一定しないことが重要であると説明している。
この後に、環境変動は一定でなくカオス的である(時間的に変動している)、制限となる資源が種ごとに異なっている(共存できる種数はニッチの数を超えてはいない)、選択的捕食などが働いている(捕食によって共存が維持される)、湖沼環境はパッチ状空間構造である(均質と考えるのが良くない)といった様々な説明がされているが、これらはいずれも競争関係の相対的優位性が不定であることに基づいている。
逆に、例えば湖沼の藻類では数千種の潜在的侵入種に対して、一般的には100以下の種しか採取できない。上述のような説明を考えるならば、共存できるはずの潜在的種数と現実の湖沼での種数には矛盾が生じるという、いわば、プランクトンの逆パラドクスのようなことを主張する人もいる(Sommer 1989)。
参考文献:
『生態学3版』(Begon他, 京都大学学術出版会)
『The Biology of Lakes and Ponds』(Bronmark and Hansson, Oxford Press.)
"The paradox of the plankton" (Hutchinson, 1961, American Naturalist, 95, 137-145)
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