研究経過報告第031007号 加藤
消費者の栄養塩循環による空間的異質性:被食者多様性への捕食者の役割
"Spatial
heterogeneity induced by consumers' nutrient
recycling:**
A new perspective in prey diversity."
** 今更ながら”Spatial heterogeneity by consumer-driven nutrient recycling:~” の方が簡潔だったかもしれない
プランクトンのパラドクスについて説明する理論のひとつとして、系の空間的な不均一性が重要であるといわれている。
本研究では系の不均一性を作る要因として動物プランクトンの排出に着目し、捕食者による栄養塩リサイクルが生産者の多種共存を促す要因となりうることを示した。
l Stoichiometoryからみた藻類の資源競争〜プランクトンのパラドクス
Ø 競争系に供給される各資源の比率と競争種ごとに資源利用比率が異なる
→最も利用効率が高い種がその系において最適な種となる。
Ø 2種類の資源をめぐる多種藻類の競争とStoichiometory
→互いに互いの律速となる資源の利用に卓越している2種が共存できる。(Tilman, 1982)
Ø 野外では資源数以上の多種共存が成立している(ように見える)。
l 捕食者による栄養塩再循環(Consumer-driven Nutrient Recycle=CNR)と藻類の資源競争
Ø エサが持つ各資源の比率と捕食者の資源利用比率が異なる
→捕食者は余剰分の資源をリサイクルする。
Ø 2種類の資源をめぐる藻類の競争とCNR
→空間的に均一な系では、CNRによって供給される資源比率が極端に偏るため藻類の安定共存は困難になる。(Andersen, 1997)
l プランクトンのパラドクスを説明するメカニズム〜系の空間的異質性が重要
Ø 消費者は種ごとに好適な資源要求比が異なるため、資源供給比が空間的に異なれば多種の共存を説明できる。(Tilman, 1982)
l 捕食者による栄養塩再循環(CNR)と藻類の資源競争
Ø 捕食者が空間的に不均一に存在するとき、CNRの効果の空間的な違いによって資源の空間的な不均一性が出来る
そこで、捕食者群集の空間構造(局在性)を考慮した3栄養段階のケモスタットモデルを考え、シミュレーションモデルを用いて藻類の共存について捕食者・拡散・資源量がどのように影響するかについて調べる。
l 二次元空間系
二次元の格子空間上で、格子間を動物プランクトンが移動し藻類と栄養塩が拡散するモデルを用いて、捕食者の移動性と拡散係数の違いによる藻類の共存種数の変化を見る。
l 捕食者の栄養塩リサイクル
捕食者の成長に利用されなかった栄養塩は、藻類が即時利用できる形で排出されると仮定した。
l 動物プランクトンについての個体ベースモデル
動物プランクトンの格子間の移動を扱うため、動物プランクトンの動態を個体ベースモデルで記述した。
l 藻類の競争能力のtrade-off
藻類の競争能力について、体内の窒素含有率とリン含有率の下限値に線形のtrade-offを仮定した。
l ベースとなるモデルの詳細については別紙[モデルの概要]を参照
l 消費者リサイクル系での空間構造は生産者の多種共存の促進になるらしい。
l 系の物理的な拡散性は低くなければならない
l 動物プランクトンの移動性は低くなければならない…?
l 栄養塩の供給条件の違い(未調査)についてはまだ不明。
l 栄養塩条件などの各種条件を変えたデータをできるだけたくさん取る。
モデル案 第031007版
動物プランクトン1種、藻類n種、栄養塩2種の3層栄養段階のモデルは右図のような三層構造のモデルで表現される。本モデルでは物質循環として、藻類による栄養塩の取り込み、捕食者による藻類の捕食、捕食者からの栄養塩の排出を想定している。
以下では各栄養段階ごとの動態についての式を記述する。
1.Zooplankton
1.捕食者あたりのバイオマス動態
捕食者である動物プランクトンの単位あたりのバイオマス(Z)の動態は、動物の成長(g)と死亡率(M)から以下のように与える。
動物の成長(g)は同化量(I)と同化効率(e)と呼吸による損失(r)の関数とし、制限となる栄養塩によって律速される効果(FR)を考える。
同化量は最大同化量(Imax)と餌濃度(FC)の飽和餌濃度(FC,max)に対する割合の積で与えられ、餌濃度(FC)は藻類iへの捕食量(aiAi)の総和で与えられる。また栄養塩による律速(FR)をLiebigの最少律の形で記述し、餌量(C)と餌の質(QR)、動物による栄養塩の要求性(θR)で与える。
動物プランクトンは藻類の利用可能な資源として排出すると想定して、動物プランクトンの栄養塩排出量(ρR)は同化資源量(IQR)と成長に利用した栄養塩量(gθR)を用いて以下の式で与えられる。
2.捕食者個体数の動態
動物プランクトンの個体数の動態について個体ベースモデルとして記述する。ある格子における個体数(n)の動態は、以下のように与えられる。
第1項は各個体の生産する卵の総和(b)、第2項は個体の死亡率(M)、第3項は移出率(m)による二次元の拡散量である。動物プランクトン個体jが生産する卵数(bj)は、動物プランクトンの純生産量(Zj - Z*)と卵サイズ(E)を用いて以下の式で与えられる。
2.Algae
藻類バイオマスの動態は以下の式で与える。第1項は成長率(μ)と被食以外の損失率(d)と希釈率(D)、第2項は被食量(IiZ)、3項で二次元の拡散量を与えている。
被食量(IiZ)は餌として捕食されたうちの藻類Aiが占める量である。
成長率μi (day-1) は制限となる栄養塩によって律速され、栄養塩含有率と餌の栄養塩量から記述される。
3.Resource (Nutrient)
溶存資源(R)の動態は以下の式により記述される。
第1項は流入出、第2項は藻類の吸収量の総和、第3項は動物の排出量(ρZ)、第4項は二次元の拡散量を与えている。
4.Parameter Settings
● 藻類の形質値:最小含有率の窒素−リン間のtrade-off
藻類の栄養塩吸収速度を決めるパラメータ値について、生理的な現実性のために、藻類の栄養塩の吸収親和性について藻類細胞膜表面上の栄養塩取り込みチャンネル数が有限と考えて線形のtrade-offを想定した(これは細胞膜の表面積が有限と考えても同じである)。異なる資源間のトレードオフモデルの生理的メカニズムからの説明は、Muller et al. (2001), Ecol. Letters(2001), 4, pp519-529 および、Koijman(2000), Cambridge Univ. press(2000)に詳しい。
窒素とリンの一細胞あたりの最大吸収速度VN,max,VP,maxは、窒素とリンを透過する膜上チャネル(もしくは結合サイト)の数をnN,nPとし、一個のチャネルの最大の透過性(親和性)をα’N,α’Pとすると以下の式で与えられる。
ここで、膜上のチャンネルの総和(nN+nP)を一定と仮定して上式を変形すると以下の式が導かれる。
[Cは定数]
さらに、膜上のチャンネルの最大透過性α’Rが種内でほぼ同じであると考えられるのでα’N/α’Pは定数(>1)である。よって藻類種iの窒素とリンの最大吸収速度は線形のtrade-offを仮定した以下の関係式で与えられる。
[K,Cは定数]
藻類が十分にcarbon-richであるときには最大栄養塩吸収速度VR,maxが栄養塩の最小含有率QR,minにほぼ比例すると考えると以下の式が成り立つ。
したがって最小窒素含有率QN,minと最小リン含有率QP,minの関係は線形のtrade-offで近似できる。
[K’,C’は定数]
Notation: List of Parameters.
Symbol |
Definition |
Units |
Notes or Assigned value |
Indices: |
|
|
|
i |
Index for algae species |
|
|
R |
Index for resources (N, P) |
|
|
x |
spatial dimension |
|
|
y |
spatial dimension |
|
|
|
|
|
|
State Variables: |
|
|
|
Ai |
Biomass of i-th algae |
μg (C) litter-1 |
|
n |
Number of zooplankton individuals |
|
|
Z |
Biomass of zooplankton individual |
μg (C) liter-1 |
|
SR |
Concentration of dissolved nutrient R |
μg (R) litter-1 |
|
|
|
|
|
Functions: |
|
|
|
b |
Hatch number of zooplankton |
|
|
g |
Per capita growth rate for zooplankton |
d-1 |
|
FC |
Available algal biomass for zooplankton |
μg (C) litter-1 |
|
FR |
Liebig coefficient of nutrient R (N, P) for zooplankton |
d-1 |
from 0 to1 |
ρR |
動物プランクトンの栄養塩Rの排出量 |
μg (R) liter-1 d-1 |
|
|
|
|
|
μi |
Per capita reproductive rate for i-th algae |
d-1 |
|
I |
Assimilation efficiency for algae by zooplankton |
μg (C) liter-1 d-1 |
|
QR,i |
Quota of nutrient R for i-th algae |
μg (R) liter-1 |
|
VR,i |
Net uptake of nutrient R for i-th algae |
μg (R) liter-1 d-1 |
|
|
|
|
|
Parameters: |
|
|
|
e |
Ingestion rate for zooplankton |
Dimensionlessfv |
|
FC,max |
飽和餌濃度 |
μg (C) litter-1 |
|
Imax |
Maximal assimilation efficiency for algae by zooplankton |
μg (C) liter-1 d-1 |
=飽和餌濃度のときの餌同化量 |
r |
Coefficient for maintenance-related algal respiration |
d-1 |
|
θR |
Quota of nutrient R for zooplankton |
μg (R) liter-1 |
|
m |
Migration rate for zooplankton individual |
d-1 |
|
M |
Mortality rate for zooplankton individual |
d-1 |
|
Z* |
threshold biomass to lay egg for zooplancton individual |
μg (C) liter-1 |
|
E |
卵一個あたりの炭素量 |
μg (C) liter-1 |
|
|
|
|
|
μR,max,i |
Maximal reproductive rate restricted by nutrient R for i-th algae |
d-1 |
|
ai |
Attack rate of zooplankton on i-th algae |
m3 liter-1 d-1 |
|
di |
Per capita mortality rate for i-th algae |
d-1 |
|
QR,max,i |
Maximal quota of nutrient R for i-th algae |
μg (R) litter-1 |
|
QR,min,i |
Minimal quota of nutrient R for i-th algae |
μg (R) litter-1 |
|
VR,max,i |
Max net uptake of nutrient R for i-th algae |
μg (R) liter-1 |
|
ηi |
Dispersal ratio for i-th algae |
d-1 |
|
|
|
d-1 |
|
D |
Dilution rate for chemostat system |
d-1 |
|
SR,in |
Supply concentration for nutrient R |
μg (R) litter-1 |
|
ηR |
Dispersal ratio for nutrient R |
d-1 |
|
|
|
|
|