消費者の栄養塩循環による空間的異質性:
被食者多様性への捕食者の役割

"Spatial heterogeneity induced by consumers' nutrient recycling:
A new perspective in prey diversity."

○加藤聡史、占部城太郎、河田雅圭 (東北大・院・生命科学)

 2種類の栄養塩をめぐって競争する植物プランクトン種の共存条件は競争者の栄養塩利用比率と系への栄養塩供給比率、すなわち資源の消費ベクトルと供給ベクトルによって決定されるといわれている。このことについて、Andersen(1997)は、ケモスタットモデルを用いて動物プランクトン存在下では排出による栄養塩再循環が資源供給バランスを偏らせるため、2種以上の植物プランクトンの共存は極めて困難になるという理論的予測を行った。

 しかし、実際の系では動物プランクトン存在下でも多数の植物プランクトン種が共存している。この理論予測と野外観察との不一致の要因のひとつとして、上記のモデルが空間構造を考慮していないことが挙げられる。 そこで我々は、動物プランクトン個体の空間的なばらつきによってできる栄養塩リサイクル量の空間的不均一性が植物プランクトンの共存に与える影響に着目した。Tilman (1982)は資源消費ベクトルモデルを用いて、供給条件の異なる微小な生息空間が存在すれば、2種類の資源をめぐる競争であっても多種共存が達成されるという理論的な予測をしている。

 本発表では、資源をめぐる競争系において空間構造を考慮したシミュレーションモデルを用いることで、2種類の資源をめぐる競争下の多種共存の問題について示唆を与えることができるのではないかと考えた。