03.05.14 加藤担当

Neural network models as a management tool in lakes.

Hydrobiologia. (408-409). Aug. 1, 1999. 139-144.

Cuneyt Karul, Selcuk Soyupak, Coskun Yurteri

[この研究で扱う問題]

富栄養化とそれに伴う藻類ブルームの発生は多くの湖沼で深刻な問題である。
 →富栄養化に対する対策は非常にコストがかかり、場合によっては修復不可能なケースも存在する
したがって湖沼の富栄養化対策については早期の予測が必要となる。

この研究では富栄養化モデルとしてニューラルネットモデルを用いることで、このアプローチの理論的・実用的な問題について扱う。

[何をして何が得られたか]

この研究ではニューラルネットワークモデルを用いて湖沼の環境に関するさまざまな変数からクロロフィル-a(以下、chl-a)量を予測し、このモデルによる予測精度が従来の重回帰分析による予測と同等の性能を持つことを示した。

[ニューラルネットとは何か?]

 ・人の脳の構造と機能を模倣
 ・学習
 ・さまざまな複雑な問題に適用されている

[方法]

 (1)ニューラルネットワークを用いた予測モデル(設計→反復トレーニング→予測)
 (2)重回帰分析を用いた予測

[結果と議論]

ニューラルネットワークモデルを用いた推定は重回帰分析による推定値と比較して顕著な改善は見られなかった。
 ・ニューラルネットを用いたモデルの予測値と現実の湖沼のデータとの相関は相関係数R=0.74となった(Fig.5a)
 ・重回帰分析による予測値と現実の湖沼のデータとの相関は相関係数R=0.71となった(Fig.5b)

著者たちの言い分:
 ・湖沼のchl-a量はPO4量に強い線形の依存性があるからではないか?
 ・変数の関係性が非線形になるような場合にはニューラルネットモデルはいい働きを見せてくれるはずだ。

[紹介者の所見]

・このモデルでは各変数間の自然系における関係性は一切考慮されない。このことは逆にさまざまな異なるシステムに適用しやすいかもしれない
 →この研究の結果で、重回帰分析による予測と有意差が出ないくらいまで学習が達成されたことからも支持できるのではないか?

・扱う変数が増えたときのことを考えると、たとえば系の動態を変数の関係性で(微分方程式等によって)記述するようなモデルに比べてニューラルネットモデルでは入力ニューロンが一つ増えるだけである。
その意味では得られたデータから予測を行う"management tool"としての利便性は高いかもしれない。

・ただし、今回のようにある程度精度が保証されておりかつ簡便な手法が存在するようなケースに対して、このアプローチが新たに侵入できる可能性は低いかも知れない。
(=従来の方法と予測精度が変わらないのであれば、わざわざ新たな手法をとる必要はない)
そしてそのようなケースのほうが実際には多いように思う。